JHDCチャンピオン深浦哲也~What’s your VERVE?#4~

JHDCチャンピオン深浦哲也~What’s your VERVE?#4~

VERVEという名前は、創立者のコルビーとライアンによって付けられました。彼らが好んでいたアメリカのジャズレコード会社の名前でもあり、「情熱」という意味も込められています。

その名前にちなみ、What's your VERVE?では、常日頃VERVE COFFEEを支える個性豊かなメンバーの「情熱」(VERVE)をお送りします。

JHDC優勝者深浦哲也~What’s your VERVE?#4

今回は、現在VERVE COFFEE ROASTERS JAPANの北鎌倉店でマネージャーを務める深浦哲也のクローズアップです。普段は穏やかな笑顔に物腰の柔らかい接客でお客様を魅了しており、彼のコーヒーを飲む為に北鎌倉店にいらっしゃるお客様が後を絶たないほどです。

2020年にVERVEにジョインしてから新宿店のマネージャーを経て、現在は北鎌倉店でのマネージャー業務に加え、焙煎や社内全体のバリスタトレーニング・カッピング・レシピ考案等を担っており、VERVE JAPANのクオリティコントロールには欠かせない存在です。

そんな深浦バリスタは、実はハンドドリップの技術を競うJHDC(ジャパンハンドドリップチャンピオンシップ)において、2018年にチャンピオンを勝ち取った実力者でもあります。
(JHDCとは、コーヒー専門店から各家庭まで、日本でもっとも親しまれている「ハンドドリップ」に特化した競技会です。毎年全国から約200名近いエントリーがあり、競技を勝ち抜くにはコーヒーとハンドドリップ抽出に関する多角的な知識と技術と経験が求められます。)

コーヒーの抽出に関してはほぼ初心者の状態から、たった3年で王者まで上り詰めた彼の原動力、そして、彼がVERVEにジョインした理由、成し遂げたい目標とは。
心に秘めるその熱い情熱に迫ります。

 

 

JHDCを目指した経緯

JHDCを目指した経緯

Q現在はVERVE COFFEEで多方面でご活躍なさる哲也さんですが、JHDCに出場することになったきっかけを教えてください。

Tetsuya:はじめは鎌倉のレストランとカフェで働いていて、そろそろコーヒー専門店で本格的にコーヒーを勉強したいなと思っていたところに、ご縁があってその年のJHDCのチャンピオンの方がいるお店を紹介していただきました。
実は、その時に初めてハンドドリップの大会があることを知りました。元々自分で独立したい気持ちもあったのとコーヒーは勉強したてだったこともあり、大会に出ると決めたほうが自分に負荷がかかりより頑張れそうだな、チャンピオンの元で働いたらより吸収できるかもなという思いで、そのお店にお世話になることに決めました。


QJHDC出場を目標にキャリアチェンジしたのですね

Tetsuya:はい。ただその時はまだ、「とりあえず大会に出てみよう」と軽い感じでしたね。結局優勝するまで3回出場することになるのですが(笑)

 

 

初めてのJHDC、結果は惨敗

初めてのJHDC、結果は惨敗

(JHDC初出場 予選)

Q実際にJHDCにはいつ頃出られたんですか?

Tetsuya:チャンピオンがいるお店で働き始めて、本当にすぐのことでした。さすがに出るかどうか悩みましたが、実力がない分失うものも何もないので、経験値をあげるためにも出てみようと初めてJHDCにエントリーしました。

まぐれで上にいけたらいいなという気持ちも多少ありましたが、もちろん結果は全然で。
最初ということでお店のレシピでそのまま淹れたりしてたので、当たり前といえば当たり前の結果ですよね。ただ、会場の独特な緊張感や細かいルールに触れられたことにすごく意味がありました。少し前までは存在さえ知らなかった大会のレベルの高さに、甘くないなと思いましたね。「このレベルに挑戦するんだ」と自分の中で決意できたのはとても大きかったですね。

 

Qその時は、コーヒーに関してはあまり詳しくなかったんですか?

Tetsuya:ほぼ完全初心者でした。家で趣味で入れる程度で、抽出について学んだことはなかったです。逆に、何が美味しいコーヒーで、プロとしてコーヒーを淹れるとは一体どういうことなのか、正解がわからなかったので、それを打破したいなとも思っていたんですよね。この思いも、JHDCに挑戦する理由の1つでしたね。

 

Q初めてのJHDC、評価はどうでした?

Tetsuya:1回目の結果はそれはもう悲惨でした。当時のスコアシートにはネガティブなことも結構しっかりめに書かれていましたね。ただ、マイナス評価である理由も具体的に書かれているので、次に繋げやすかったです。そのスコアシートを分析して、この味はこの評価に繋がるという擦り合わせを行い、自分の課題を見つけていきました。

 

Qその課題を踏まえて、次はJHDC優勝を目指していたんですね?

Tetsuya:実は、2回目もまだ優勝したいとは思っていなかったです(笑)自分の中で美味しいコーヒーとは何かを理解することがJHDCに出る最大の目的であり、優勝ではなかったんですよね。お店からすでにJHDCチャンピオンが出てるということもあって、お店のスタッフも大会出場に意欲的だったこともあり、とりあえずみんな大会には出る、この時はまだそんな感じのモチベーションでした。

 

Q他のスタッフの方もJHDCに出られていたのですか?

Tetsuya:もちろん出ている人もいましたが、ラテアート系の方もいたり、人によって様々でした。

 

JHDCを選んだ理由

JHDCを目指した理由

Q全員がハンドドリップ、というわけでもなかったのですね。それではなぜJHDCを選んだのですか?

Tetsuya:味わいもそうですが、ハンドドリップのじっくりコーヒーを向き合う姿勢や所作に惚れ込んでいたんです。2回目に出るあたりから他の大会も検討してはいたのですが、どれもしっくりこなかったんですよね。例えばコーヒー豆を持参できる大会だと、コーヒー豆の実力に結果が左右されがちで抽出技術を評価されにくくなるというのことがネックでした。JHDCでは課題豆は当日発表、ジャッジの方は誰が淹れたかわからない状態で評価するので、抽出技術を伸ばしたい自分にはぴったりでした。

 

Q皆が平等な条件下で戦うため、本当に美味しいコーヒーが選ばれるということですね。
しかし、使用するコーヒー豆が当日にしかわからないのはかなり難しい挑戦だったのではありませんか?

Tetsuya:そこがJHDCの面白いところですよね。こればかりはもう、調整力引き出しの多さを高めていくことに尽きます。これらもまさに自分が身に着けたいスキルだったので、自分が伸ばしたい技術と、JHDCが評価する技術が完全にマッチしてたんですよね。

 

「美味しくない」悔しさに燃えた2回目のJHDC出場

「美味しくない」悔しさに燃えた2回目のJHDC出場

(当時の営業中の様子)

Qそこまで考えた上でのエントリーだったのですね。2回目のJHDC出場はどうでしたか?

Tetsuya:お店に入ってから約1年程経っていたのですが、実は入って5か月ほどでチャンピオンの方が辞めてしまったんです。そのあと、お店に自分しか社員がいなかったので、流れ的に店長にならざるを得なかったんですよね。

 

Q入社一年で店長業と大会の両立ですか、とても大変ですね。

Tetsuya:それももちろんですが、1番は前任の店長であるチャンピオンと比べられたのがしんどかったですね。常連さんからはっきりと「美味しくない」と言われたり、淹れたコーヒーに対し点数を付けられたり、オーナーに淹れ直させられたり、、、結構キツいですよね。

 

その環境がどうしても悔しくて、何かしら結果を出さないとこの悔しさは晴らせないな、とある種決意のようなものが固まったんですよね。

 

その気持ちを踏まえての2回目のJHDCエントリーだったので、やっぱり一年前よりは気持ちが入ってました。今回は4ヶ月前くらいから仕上げて行って、目標だった1回戦突破を果たせました。その年から、他の選手の淹れたコーヒーが試飲できるようになったので勝ち進んだ方のコーヒーを可能な限り飲みまくって、勝つコーヒーとは何かを探りました。それと同時に、負ける人の共通点もなんとなくわかってきた年でした。

 

Q大会について細かく分析していきながらの出場だったのですね。

Tetsuya:はい。例えば、ポジティブでもネガティブでもないコーヒーより、美味しいんだけどネガティブな要素を感じるコーヒーの方が減点されやすいんですよね。JHDCでいうネガティブな要素は味だけでなく、コーヒーを淹れる一連の流れ全てを指します。

 

実は僕、2回戦目で計量した豆を床に倒してしまったんです。JHDCには時間制限が設けられているので、倒した豆を掃除して、新しい豆を測るその一連の流れが、マイナス評価につ繋がりました。その時、プロとしてのオペレーションの重要さに気付かされたんです。作業の順番、ツールの位置、最適なオペレーション、全てが結果につながっているんだと思いました。

オペレーションに関しても、味に関しても、日頃から意識していないと改善できないと思ったので、その日から1年間大会を意識した営業を続けました。

 

Q次のJHDCに向けて、1年間も練習を続けたのですか?

Tetsuya‐:はい。勝つための味、バリスタとしての振る舞い、オペレーションの質をあげていくには、1年はかかると逆算したんです。もちろん普段の店長業もありますので、負担なく効率良く質を上げるためにどうするか考えてました。

そこで見つけた方法が、休憩時間の15分を毎日検証する、というやり方です。大会の調整時間の15分を身体に刷り込ませるためにも、この時間設定で確実に行いました。
記憶も毎回文章で書くのは継続が難しいと思ったので、オリジナルシートを作成して、そのときのレシピと記号で簡単に評価できるようにしました。

あとは器具も自分で選べたので、相性のいいものを検証していましたね。実際に3回目の出場では、予選と決勝で器具を変更しています。

 

本気でJHDC優勝を目指した瞬間

本気でJHDC優勝を目指した瞬間

(決勝戦プレゼンテーションの様子)

Q何度も検証を重ねて慣れ親しんだものを、わざわざ変更したのですか?

Tetsuya:予選トーナメント2位通過で決勝に進出が決まったのですが、2位という結果を考えると、「決勝では予選と同じことをしても勝てないな」と思ったんですね。その時には日頃の営業で積もり積もった悔しさのバロメーターも頂点に達してたので、周囲を見返したい気持ちが原動力になっていたと思います。運良く決勝まで来れたし、もうとことん優勝を目指してやろうと。優勝を意識したのはやっとその時期でしたね。数えきれないほど言われた「美味しくない」を胸に、めちゃくちゃ燃えてました。

決勝はこれまでの競技にプレゼンテーションが追加され、その合計点で順位が決まります。
プレゼンの課題豆は事前に発表されるので、決勝進出が決まってから当日まで約3ヶ月ありました。そこでできることを全てやり尽くしましたね。

プレゼンテーションは経験がなかったので、暗記のレベルでは無く動作に合わせてセリフが自然と出るレベルまで持っていきました。それと、過去のチャンピオンの方たちに会いに行き、勝てるプレゼンとは何かと漠然とした質問投げかけていましたね。

その時、あるチャンピオンの方に

「勝つ秘訣は審査員の方にこの人を優勝させたいなと思わせること」

と言っていただいたんです。それは単に計算高くプレゼンを行うというわけで無く、目やオーラ、態度で審査員に情熱を伝えること、いわば自分のファンになってもらう必要があると思いました。




Qプレゼンテーション、拝見させていただきました。トップバッターでの実演でしたよね?

Tetsuya:はい。くじで1番を引いてしまった時は、正直やってしまったなと思いました。ジャッジの方も、1番の人に最高得点はつけづらいじゃないですか。しかも僕は初めての決勝だったので、他の人の競技を見てどんな空気感か知りたかったんですが、それも叶わず、とりあえず絶望しました。

ただ、その時のお店のオーナーが「1番になるから、1番を引いたんだ」と言ってくださったのを今でも覚えています。その一言で一気に緊張がほぐれ、3ヶ月間準備してきたものを早く見せたいという気持ちで溢れてました。

決勝プレゼンテーションの様子はこちらから

<参照>JHDC2018決勝 チャンピオン深浦哲也



悲願のJHDC優勝

悲願のJHDC優勝

(写真下段中央が深浦)

Q様々なハンデを乗り越えて、優勝を手にされたのですね。優勝まで3年かかりましたが、どうしてそんなに目標に向かって努力し続けられたのですか?

Tetsuya:やっぱり、好きなもので悔しい思いをしたのが大きかったです。自分は大好きで努力もしているのに、周囲には貶されて認めてもらえない環境が本当に悔しかったですね。当時は本当に、悔しくて夜眠れないくらい心が動かされていました。

逆に、勝ちたいという気持ちだけでは優勝できなかったと思います。悔しいという大きな原動力に引っ張られて、結果が勝利に繋がったと思っているので、ある意味毎日美味しくないと言われ続けたあの環境が、優勝できた大きな要因の一つですね。

 

Q優勝してから環境は大きく変わりましたか?

Tetsuya:はい、かなり大変でした。JHDCチャンピオンという肩書きを期待してお店にくるお客様に対して、絶対に美味しいコーヒーを出さなければいけないプレッシャーは常に感じていましたね。チャンピオンになったから終わり、というわけでは無くむしろ始まりでした。

 

Q周囲の反応はどうでしたか?

決勝に進んだこと自体に驚いてました(笑)見返してやると一人でコソコソ練習してたので、いつの間に?と言った感じでしたね。皆、まさか僕が優勝するなんて誰も思ってなかったと思います。

 

選ばれるバリスタでありたい

選ばれるバリスタでありたい

Q目標に向かって努力し続ける姿に強い情熱を感じます。哲也さんにとって、バリスタでもっとも大切にしている情熱(VERVE)はなんですか?

Tetsuya:「この人のコーヒーが飲みたい」と選ばれるバリスタでありたい、その思いでいます。美味しいコーヒーはもちろん淹れたいけれど、結局バリスタが提供するのは総合力だと思います。コーヒーの好き嫌いに関係なく、自分が淹れることに価値がついたら嬉しいなと思っています。

歌手で言えばサザンオールスターズがわかりやすいかと思うのですが、別にみんな上手い人の歌を聞くために聴いてるわけではないですよね。ボーカルの桑田さんの声と歌い方、あのスタイルに惚れ込んでいるんだと思ってます。上手いは当たり前で、そこに選ばれる要素、好かれる要素があるんですよね。

僕もそんな風に、自分のスタイルで多くの方を魅了して、選ばれるバリスタでありたいと思っています。

 

JHDCチャンピオンがVERVEを選んだ理由

QJHDC優勝後は、なぜVERVEへジョインしようと思われたのですか?

Tetsuya:以前から店舗に来店したことがあったのですが、その時のコーヒーの美味しさはもちろん、働いている人が忙しい中でもみんな笑顔でとても楽しそうなのがすごく印象的でした。
単純に、そんな人達とそんな環境で働いてみたいと思ったのがきっかけですね。

VERVE COFFEEの洗練された店内心地よい接客人が作り出すお店の雰囲気が、どれもが総合的に素晴らしいお店だと思いました。どうやったらそれが出来るのか、深く学びたい、自分が提供したいと思ったのでVERVE COFFEEに入りました。




今後のVERVEで挑戦したいこと

QVERVE COFFEEでこれから挑戦していきたいことはありますか?

Tetsuya:日頃のカッピングやプアオーバーのトレーニングを通して、より一層チームでコーヒーについて議論し合えたら嬉しいですね。僕自身も大会に出てみて学んだこと、変化したことが多かったので、みんなも気軽に大会に出たりできるような、コーヒーが本当に身近にある空気を作っていきたいです。

特に大会を意識している子たちに関しては、勝つための正しい努力の仕方、方向性、質の重要性など、教えていきたいことは山ほどあります。大会に出なくとも、様々なコーヒーのアプローチを知り、みんなも楽しみながら、プロのバリスタとしてお客様も幸せにできたら素敵ですね。




JHDC優勝を目指す方たちへエール

Tetsuya:まず、なぜJHDCで優勝したいか理由が重要です。動機が強ければ強いほど原動力になります。

そして、どうしたら努力し続けられるか逆算していくことがおすすめです。大会の日にちは変わらないので、それまでにどのラインに実力を上げていくかを無理のない程度で決めて、絶対にやり遂げることですね。

それと、聞く前に何事も自分で検証すること。実際に試してみて自分の中に落とし込むことで、自分のものにすることができます。細かいことはあまり気にしなくても大丈夫です。揺るぎない理由と、トライアンドエラーを継続する力があれば、きっと結果は付いてきます。応援しています!




今回は、JHDC2018チャンピオンに輝いた深浦哲也のクローズアップをご紹介いたしました。VERVE COFFEEでは、深浦監修のハンドドリップの淹れかた講座や、カッピングについての記事を公開しております。

 

深浦バリスタ監修記事はこちらから
<参照記事>プロが教えるカッピング
<参照記事>【保存版】ドリップコーヒーの淹れ方ガイド
<参照記事>【バリスタ直伝】アイスコーヒーの作り方

 

VERVEインタビューでは、これからもスタッフの魅力を伝えるべく、それぞれの熱い思いをお伝えしていきます。

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